日常という名の、かけがえのない贈り物
最近、ある利用者様の最期に立ち合わせていただきました。
そのご自宅に流れていたのは、驚くほど穏やかで、温かい「日常」の時間でした。
ベッドに横たわるお父さんのすぐ傍らで、お母さんはテレビのスポーツ中継を一生懸命に応援しています。台所からは、トントンと小気味よい包丁の音が響き、お父さんがずっと食べ親しんできた、お母さんの手作りスープのいいにおいが漂ってきます。
特別な「死」の儀式ではなく、そこにあるのは、いつもの、当たり前の生活の風景でした。
過去から繋がっていた「安心」のバトン
お話を伺うと、ご家族にはある共通点がありました。
かつて、ものがたり診療所の佐藤伸彦先生の講演を聞き、感銘を受けていたこと。そして以前、ご自身のお父様の時にも「ものがたり」のケアを受けていたこと。
ご家族の言葉からは、かつて触れた「ものがたり」の理念が、時を経て、今度はご自身の大切な人を送る際の「勇気」と「安心」に変わっていることが伝わってきました。
私たちが届けたいもの
私たち訪問看護師ができることは、医療処置だけではありません。
お母さんがお父さんの横でスポーツを応援できるよう、お父さんがお母さんの作るスープのにおいを感じながら眠れるよう、その「日常」を守ることこそが、私たちの役割なのだと改めて教えられました。
病院では叶わない、この日常の音が聞こえる別れ。その人らしい物語の最終章を、住み慣れた家で、いつものにおいに包まれて書き終える。
そんなお手伝いをさせていただけることができたらと思っています。

宮川 尚乃 | ものがたり訪問看護ステーション管理者・看護師

0763-55-6100